あまりにショックなことが起こって
日記も書けなかった。

火曜日の夜。
そろそろ夕食の準備をしようと思っていた時。
メールが来た。
あたしは、某H氏か、某N嬢かな?と思って
メールをチェックした。

・・・違った。
彼からだった。

「やっぱり見捨てられたみたい・・・」

そう一言、書いてあるだけだった。

何のことだろう・・・
不審に思い、2、3度メールする。
「どうしたの?何があったんですか?
気を落とさないで!!」
「ご飯、食べられなくなったの?
お金、なくなっちゃったの?」
しかし、一向に返事が来ない・・・
とにかく、あともうちょっとしたら
電話してみよう、そう思っていると
こんなショッキングなメールが届いた。

「自分の現場で事故があって、
建築士の免許を剥奪されるかもしれないんです!
自分の会社の人間が
生きるか死ぬかの状態なのに知らぬ存ぜぬでは、
自分の社会生命が断たれてしまう。
こんな時に自分の生活費の心配なんて
していられません!」

彼がメールしてくる時は決まって
「お金がない!」とか
「おとといから何も食べてない!」とか
そういうメールが多かった。
だから今回もてっきり、
そういうことだと思ってしまった自分が
すごく恥ずかしかった。
そんなちっぽけなことじゃなかったんだ。

しばらくしてから・・・またメールが届いた。
だけど、内容の辻褄がどうしても合わない。
おかしいな、と思って、送信時刻を見た。
何と、今日の昼過ぎに送信されたものだった。
そう、彼は、夜にメールをする前に一度、
事故の件に関して、あたしに
メールをしていたのだ。
しかし、あたしの方には届いていないのだから
あたしは、返事のしようがない。
しかし、てっきりこっちに
届いていると思っている彼は
恐らく昼から、あたしの返事を
待ち続けたのだろう。
でも待てど暮らせど返事は来ない・・・
だからこその、あの一言だったのだ。
「やっぱり見捨てられたみたい・・・」と。
あたしは、そのメールが来てすぐ、
「Aさんが今日、お昼頃、最初にくれたメール、
今頃届きました。怪我なさった方の
容態は・・・?それも心配です。」
とメールした。すぐに返事が来た。
「そうだったのか。
てっきり届いていると思って・・・
あいつ、やばいかもしれない。
今夜が山だって。」と。

こればかりは、どうすることも出来ない。
ただ、祈るしかないのだ。

そして今日、夕方、彼から電話があった。
「生存確率は5%、そのうち、
90%以上は、植物人間だ・・・」
もう、言葉がなかった。
ビルの建築現場で、22階部分からの転落。
落下防止ネット等にぶつかりながら落ちたため、
即死だけは免れたとのことだったが・・・
「今まで、死亡事故っていうのは
何件があったけれど、今回は
この仕事を始めた時から、自分の側近みたいに
いつも一緒だったやつだから、
精神的に、かなりきつい。」

こんな時は、どんな言葉をかけても
無責任な言葉にしか聞こえないものだ。
あたしは、どうしていいのか分からなかった。
「もう・・・何て言っていいのか分からないけど
頑張って下さい・・・としか言えないです。」
「うん・・・まぁ俺も
何を頑張っていいのか分からないけど・・・
ありがとう。」

自分の力のなさに、腹が立った。
大事な人が窮地に立たされているのに
自分は何も出来ない。
気の利いた言葉さえ、かけてあげられない。

今、彼は、あちこちに声をかけて
カンパしてもらって、
何とかお金を集めているらしい。
・・・あたし、協力しようと思う。
言葉で励ますことも、
心の中で祈ることも大切だけど、
でも、やっぱり何か
「目に見えること」をしてあげたいと思う。

でも・・・どうして?
もう十分、ここ1ヶ月で
彼は辛い思いをしているはず。
なのにどうして、こんなにまで辛い試練を
まだ、与えようとするのか。
でも、あたしは信じたい。
これを乗り越えたら、きっと
光が見えてくるはず・・・
今まで、一生懸命頑張ってきた彼だ。
そして、仕事の方も
低迷状態ではあるにせよ、
最近、何とか上向いてきていたところだ。

「俺ももう34だもんなぁ・・・
早く安定しなきゃ・・・」

この前会ったとき、ぼそっと言った彼の言葉が
頭をよぎった・・・


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